52 ケセン語訳聖書

ケセン語訳の聖書が世に出た時話題になりましたが、この訳業を成し遂げた山浦玄嗣という方（医師）のインタビュー番組の再放送がありました（最初の放送は2002年）。ケセン語とは気仙沼周辺で使われている言語のことで氏は膨大な時間とエネルギーを費やして先ず辞書や文法書を完成させそれから翻訳に取りかかられたのだそうです。新約聖書のギリシャ語にはラテン語を始めとして長い翻訳の歴史がありますが、無論これは独自の位置を占めるものでしょう。　氏のお話には幾つか興味深い点がございました。神様を「おとっつぁま」と呼び、慕うエモーションを重視したこと。天国は心の状態と看破し神様のおとりしきりとした点。有名な山上の垂訓の一節から「心の貧しい人は幸いである。」この解釈上の難所と思われる所では原語の吟味から「心の鼻息の荒くない」というニュアンスを引き出し訳出etc.心を澄ませて読む者の魂に響く言葉のちりばめられた聖書という書物ですが深い信仰に裏付けられたこの偉大な訳業に心から頭の下がる思いでございました。

51 主観的客体

私達が普通、神とは何かと問うとき絶対者としての力の働きは認めても姿・形があると考えるのはなんとなく幼稚であるよう思えます。所が実はそうではなく、真相は一見進んだ見方即ち「如来様の実体は真空である」との見方の先にあるというのです。従来一切の根本仏と見られてきた〈法身〉は絶対界における唯一最高の根本仏ではなく、その自受用身には人格的妙色相好身はないとされてきた〈報身〉は《法身の中心である報身》の一部を捉えていたに過ぎない。これが三身四智の仏眼で《法身の中心である報身》と合一して初めて弁栄聖者がお説き明かし下さった所で（故に光明主義では《法身の粋・中心である報身》を根本仏と仰ぎま）すが、ここが光明主義の極めて重要な点です。「真空に偏せず妙有に偏せず・・・」とこのような形でその真相が明かされた事は未だかつてなく、お陰で私達は従来雲に隠れて観ることの出来なかったと思われる世界の消息を知る事が出来ます。聖者は「如来様のお姿が拝めるというのは自分の主観であって如来様は本当は姿・形の在さないお方なのではないか。」という私共にとりまして基本的とも言える疑問を持ったある方に対してそれをはっきりと否定なさった上で「如来様はもともとこのような相（姿・形）を備えておいでになるけれども信仰のない者には見ることが出来ない。」そこの所を信仰という主観を通してのみ見奉るべき客体という意味で『主観的客体』とお示し下さっております。

50 不識的精神態

弁栄聖者はご自身の深い三昧体験から如来様の事実を直観認識なさった所をお明かしになっておられますが、主唱なさった超在一神的汎神教としての仏教の本尊観に関して宇宙大霊という言葉を使っておられます。ここで注目すべきはこの宇宙大霊を『不識的精神態』であるとおっしゃっておられること。この「不識的」というのは「自己意識のない」という意味だそうですが、自己意識は主観（自）と客観（他）の対立上生じるつまり周囲のものは自分でなく他であると認識する時に生じるものなので宇宙全てを身とし心としておられる存在に他はありえず従って自己意識は起こり得ない訳です。すなわち如来様は意識的なお方ではない。これが如来様の事実であるという点で、一見似かよった説かれ方をされることがあってもキリスト教とは一線を画すものと思われます。

49 無生忍と無生法忍

従来の仏教が「汎神教」として説かれていたのに対して、弁栄聖者はご自身の三昧体験からそれが「超在一神的汎神教」というべきものである旨お説き明かし下さったことはすでにご紹介致しました。聖者によって初めて明かされた悟道の奥義については一般に広く知られておりませんが、聖者は仏眼の四位とされる『開示悟入』について、それぞれ開《感覚的啓示》・示《写象的啓示》・悟《法身理想的啓示》・入《三身四智の三昧》とした上で、それまで雲に隠れて見えなかった「入」の境涯がお釈迦様のご境涯であることを初めて明らかにして下さったと私共は承っております。それによると法身の平等の理法が認識されるにとどまる形式的合一である《無生忍》に対し差別の理法が認識できる内容的合一が《無生法忍》なのですが、従来の仏教ではこの「入」の位の境涯の真相について全く説かれていないため為、この「入」の境涯である無生法忍と「悟」の境涯である無生忍の区別ができなかったと言う訳です。

48 訃報

今月（平成２２年１月）４日に芦屋光明会聖堂の杉田善孝上人が遷化なさいました。杉田上人は笹本戒浄上人様亡きあと７０有余年の長きに渡って聖者より引き継がれた尊い法灯を護り伝えてこられました。ここに改めて深く感謝致しますと共に心よりご冥福をお祈り致します。合掌